3つの要因があるということをおっしゃっておりました。その一つは風、もう一つは砂、そして観光客である。この3つが敦煌の石窟を破壊している原因である。勿論、風と砂が敦煌を破壊するということは誰でもが想像するところでありますが、しかし、そういう自然的な原因と見られるものに対しては、保存するための色々な対策が現在すでに試みられていて、砂丘の上には砂防工事だとか、あるいは風を防ぐために扉というものが作られています。 最後の観光客というものが問題でありまして、観光客を全部シャットアウトしまして、そして全部締めてしまって誰にも見せないということが良いんですが、それは先程申し上げましたように何のための文化遺産の保存かという事に背くことになりますから、やはり観光客を絶対にシャットアウトすることは望ましくない。観光客がどのくらいの影響を与えるかという事も調査しておりまして、観光客がよく入る石窟と観光客が全然入らない石窟の2つでその中の空気の検査をしております。 そういう検査の結果、やはり観光客が入ることによって中の空気に大きな変化があることが分かっております。1人の観光客が1時間その中に入りますと、50gの湿気を放出すると言われています。二酸化炭素は0.1m3放出されるというような計算になっているようです。水によって壁面が傷むと言うことは当然ですが、二酸化炭素は壁画の顔料に悪い影響を与えるということが分かっております。ところが、観光客が1人入ることはそれだけ影響がある、だからいけないんだと言うことではないようでして、むしろ観光客が入ることによってそれと一緒に外の空気が入ってくる。そして観光客が放出したような湿気もそれと同時に外に出ていくことがあるんだそうで、ですから問題はむしろ観光客よりは観光客が入ることによって外気が入って中の空気が変化するということが大きな原因になるということです。 それから石窟内の気温が夏に非常な変化がある。しかも観光客は、現在とのくらいの人数が入るか知りませんが、その当時は10万人程度でしたが、例えば10万人入ると致しましてそのうちの80%は7月から9月の間に訪問客が訪れる。その夏には気温が1℃から3℃の変化があり、しかもそれが午前中より午後の方が著しい変化をみせるということが分かっております。そういう色々な実験の結果によりますと、先程申し上げましたように、やはり外の空気が中に入ってくることによる変化というものが大きな原因になるようでありまして、そのためにはどうしたら良いかというと入り口を密閉してしまうということが1番簡単な方法であるというふうに結論づけているわけです。 そういうシンポジウムの報告がございまして、その他の方々から色々な意見が出てまいりました。私もその会議の主催者と致しまして私の考え方を述べたわけですが、私がその時に、敦煌でもそういう管理をするために入り口に扉を作り、それから傷んでいるところは石こうで修理をする、壁画もしているということですけれども、私が最初にお願い致しましたのは、いろんな保存工作というものを行っているけれども、これは敦煌だけのことだけではありません、日本の国の場合もそうですが、保存の工作というものを必要最小限に留めて欲しい。というのは現在いろいろの研究がなされて、こういう方法が一番いいんだという方法でやっているに違いないと思うんですが、しかし、それが絶対に最良である、永久に正しいんだということは言えない。 一つの例として先程申しましたインドのアジャンタの石窟の壁画の保存を、インドの当局が19世紀に行いました。その時には壁画の上にニスを塗りました。ニスを塗ってその時としては1番いいと思っていたんです。ところが現在になりますと、ニスを塗ったために本来の壁画の色が全然変わってしまったのです。光沢があるんですが全然色が違ってしまった。これでは駄目だということで今一生懸命になってそのニスを取り除く作業をしているんですが、しかし、一度塗ったものを取り除くことは大変でございまして本来の壁画の面を壊さないように取り除くということはむしろ非常に困難である。当時としては一番いいと思ったのですが現在では駄目だということです。もう一つの例としてアフガニスタンのバーミヤーンの石窟でも、石窟の一部が壊れてきて、そこをセメントを塗って補強したんですが、ところが今になりますとセメントというのは水を含みます。水を含むことによって、セメントが崩壊していき、セメ
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